当サイトが主催する、次世代ラッパーオーディション企画『TOKYO DRILL 2 』。現在、最終選考に残った3組のMusic Videoが同じく当サイトから公開された。その中で、再生回数のトップを走るのが、17才のラッパー X 1ark だ。
8月1日には、3曲入りのEP『I trust no one』がリリースされ、その1曲目「Eternal Blaze」のMusic Videoが、新人としては異例の9300回再生されている。(8/6現在)
映像ディレクターを務めた t.t.t. は、X 1ark の目にフォーカスを当てた映像に仕上げた理由をこう語っている。
「彼の目出し帽から出てる目を見て、すごくいい目をしてるなーと思っていました。しかし、その目の奥には冷酷さや殺気、どこか悲しさ寂しさも感じていました」
彼の目の奥に何があるのか知りたくて、今回インタビューを行った。激しさの中に、17才とは思えないほど落ち着き放ったラッパーの深層に迫る。
◤インタビュー◢
ー 『TOKYO DRILL2』に勝ち上がり、ファイナルステージまで進みました。反響はいかがでしたか?
X 1ark:周りの友達からはすごいなって言われたりしましたけど、正直勝ち上がると思ってたんで。運がいいとは思わないです。
ー 『TOKYO DRILL2』のファイナルステージでは、幼少期の辛い経験や、複雑な家庭環境、貧困が語られています。どのような幼少期を過ごされましたか?
X 1ark:できれば曲で語りたいんで多くは語りませんが、単純にお金がなくて電気を止められたりとかありました。小学生の時って家族でお出かけするじゃないですか。自分にはそういうのがなくて、唯一のお出かけはチャリで2ケツして近所のスーパーまで行くことでした。
ー 貧しさの象徴として「冷めてる飯」というフレーズが出てきます。
X 1ark:親から「今日は晩飯ないわ」とか言われて、どうしようもできないんでスーパーで万引きして…という感じの生活が続きました。母親は夜職やったんで夜は家にいなくて、自分が小学校一年になる前ぐらいから不倫をしてて、家帰ってこなくなってました。
ー そういった体験が、X 1arkさんのリリックには色濃く反映されています。
X 1ark:ずっと家庭環境がコンプレックスでした。最近までそれを隠してメロディ主体の曲をやってましたが、逆にそれを武器にできるジャンルってなんやろ?って思った時にDrillを見つけて、コンプレックスも包み隠さずもう歌おうと思いました。
ー 4月1日にはPxrge Trxxxper (以下 Pxrge)さんとダブルネイムEP『Behind The Pain』をリリースされました。それだけでなく楽曲「Not an opp」でも彼をネイムドロップしています。 2人はどのように出会ったのでしょうか?
X 1ark:彼とは同い年で、15才の時にはそれぞれ楽曲制作をしてました。僕がちょっとTikTokでバズったんですよ。その時にPxrgeから「すごいですね。僕も同い年で曲作ってて」って言ってきてたんです。けど、正直そんな奴いっぱいいたんであまり相手にしてなくて。
ー 最初はPxrgeさんからのアプローチだったのですね。
X 1ark:DMが来る度に自分の曲のリンクとか送ってくるんですよ。しつこいし聴いてみようかと思ってリンク押したらスゴくて、「お前ヤバいやん!」って言って。そっからすごいスピードで仲良くなりました。お互いフィーリングが合うし、価値観も合うし、幼い頃の境遇が似てるところがありました。
僕と Pxrge ってマジで知名度とか数字的に同じぐらいで、「同い年でカマせんの俺ら二人ぐらいやから」って話してて、なら一緒にEPも作ろうぜってできたのが『Behind The Pain』です。
ー 2人の声質が違ってていいコンビですよね。Pxrgeさんが怒りをシャウトする赤い炎とするなら、X 1arkさんは怒りを内に秘める青い炎という感じがします。
▌自分の感情の吐きどころがないから曲にしているだけ
ー では、新しいEP『I trust no one』についてお伺いします。
1曲目の「Eternal Blaze」では、自分以外の人間への不信感をリリークにしていまが、同時に悲しみとか孤独みたいなのがにじみ出てるように感じました。X 1arkさんには、この世界はどのように見えているのでしょうか?
X 1ark:ん〜ちょっとおかしく聞こえるかもしれないですけど、世界で自分以外は人間じゃないと思ってます。じゃあ、他の人たちは何なんって言われたら、まぁ何とも言えないですけど。
信用できへんし、誰も。
ー リリックの中で「神」への不信感が度々語られています。それも幼少期に培われた想いからでしょうか?
X 1ark:幼い頃は周りとの違いが苦しくて、この怒りって誰に対する怒りかなってずっと自問自答してました。自分が生まれてきたことを恨んでたんで、命を作るのってやっぱ神じゃないですか。神をめちゃくちゃ信じてるとか、宗教的なあれではないんですけど、これは全部神のせいや思ってましたね。
ー それは両親への憤りを神にぶつけてたような感じですか?
X 1ark:そうですね。もう何かあったら、すぐに神のせいやって思ってました。幼少期ゆえの考え方が今もある感じです。
ー その不信感は、誰かに認められたいという思いの裏返しなのか、圧倒的な孤独感なのかどちらでしょうか?
X 1ark:たぶん圧倒的な孤独感やと思います。もう死ぬほど裏切りを経験していますし、幼少期には育児放棄も日常的にあったんで。期待するのが悪いんやなって思うようになりました。
別に誰かに認められたい訳じゃないです。曲は好きで作ってるだけですし、自分の感情の吐きどころがないから曲にしているだけです。
ファンを増やしたいとも思ってないですね。ただ、自分と同じ境遇の人がいたら背中を押してあげたいという思いがあります。
ー 「鮮明に残る嫌な記憶すら表現のために。歌詞に記録した」というリリックは、表現者として尊いことだと思いますが、同時に痛みを自分で書き記す辛い作業ではないでしょうか?
X 1ark:いえ、むしろリリックとして体現することで楽になっています。胸の中に秘めてるものを外に吐き出すイメージです。
ー そんな感覚なんですね。Liveで歌う時には、その時の痛みを思い出しながら歌っているのでしょうか?
X 1ark:曲にもよりますが、Drillで勢いよく歌ってる曲は、悲しい感情を歌詞にしているはずやのに脳がいい感じに変換しているというか、音楽に乗せてるからあまり気にならないです。
ー 曲なってしまったら次元が変わり、曲を表現することに集中する感じでしょうか?
X 1ark:あー、そうです。そうです。
ー 2曲目の「Not an opp」はバイオレンスで攻撃的で、対照的に、3曲目の「Sad Emotion」では、迷いや心の弱さを歌にしています。その振り幅の大きさがアーティストとしての魅力ですが、同時にいつ壊れてもおかしくない危うさも感じます。いかがでしょうか?
X 1ark:今は危うくはないですね。落ち込んでる時は、Pxrge が励ましてくれます。彼がいるかいないかは大きくて、彼がいることが支えになっています。
「Sad Emotion」はPxrgeにも相談できないようなことも書いているし、「Not an opp」では友達には言えへんようなこと書いています。人に言えへんようなことを曲として表現できているので大丈夫です。
ー EP『I trust no one』では、X 1arkさんの内面がよく見えるというか、表現の純度が一つ上がったような気がします。
X 1ark:成長しているかどうかは分かりませんが、ためらいなく歌詞が書けるようになりました。これまでは、やっぱこれは歌詞にしない方がいいかなと歯止めを効かせることがありました。今回はそういうのを一切捨てて、もう書いてみようって思ったんですよね。
ここまで書いてしまった方が、自分の強みになるかと思って。
ー それもあって「Sad Emotion」はグッとくる作品になっています。"目出し帽" はDrillミュージックの象徴ありますが、同時に顔を隠さざるを得ない生きづらさの象徴としても描かれています。ぜひEPの曲順で聴いてもらいたいですね。
今後の予定を教えて下さい。
X 1ark: 1stアルバム『Even god is enemy』も、EP『I trust no one』も客演なしのソロでやったので、次のアルバムではいっぱい客演を呼んで豪華に行こうと思っています。
あとは今まで通り歌詞には嘘を書かず、リアルは大前提だと思ってるんで、そこは曲げずにいこうと思います。
info
EP『I trust no one』
Instagram:https://www.instagram.com/x.1ark/
text by ドラム師匠
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